日本財団 図書館


 

厨房のドラが三度打たれると料理を運び始める。料理は定められた二人が運ぶのであるが、その時、手に皿を持ち踊りながらテーブルまでやって来る。これを料理運び舞と称する。厨房から科理一種類運び出されるたびごとにドラが叩かれる。しかも何番目の料理には、その数だけドラが鳴らされる。全ての料理が連び出されると、ソナが三声、長く吹かれ厨房でドラが三度叩かれる。これを合図に宴会会場の門が閉められる。その後はソナは喜事調(祝い調子)を奏し、客はその演奏の中で食事を始める。農村部におけるペイ族の披露宴用小屋はたいへん小さいので、招待客が多い場合、順番に食事をしてもらう。耳支歌の上演は新郎新婦双方が出席しているその順番に行われる。扮装した四人の耳支は一方の手にカマドの甑の竹簀(竹で編んだ飯を焚く時、米を濾すのに用いられる炊事用具)を持ち、他方の手でイラクサの枝を持って、ソナ、ドラの伴奏に合わせ踊り込んで来る。
まず東西南北の四方で踊り、踊りながら手にしたイラクサを振りまわして下方を叩きまわる。これは厄払いを意味している。その後宴会場のあちこちを右往左往して踊りつつふざける。歌の多くは民謡小調で、言葉の意味は婚礼、新郎新婦を祝福した関係のある滑稽な内容である。宴会場のあちこちで歌い踊るのを終えると、最後に新郎新婦のテーブルの所へやってきて二人に纏わりつき、冗談を言いつつふざけて酒と料理を要求する。花嫁はあらかじめ用意しておいた紅肉(紅い色で染めた肉塊)一切れを耳支の甑の竹簀の中へ放り投げて耳支の纏わりつきを振り切る。この時招待された客たちは竹簀の中の紅肉を奪い取ろうとし、耳支は手にしたイラクサでその者たちを追い払おうとする。それでも客たちは、イラクサで打ち叩かれることを恐れず、ついに奪い取る。こうして肉を奪い取った者は、一年中難をのがれることができ、家中の者平穏無事に過ごすことができると信じられている。
夜、閙房の時刻に至ると耳支歌の第二部が始まる。演技の始めに婚家の主人は大きな箕で門を塞ぎ、耳支歌の一行十二人は門を開けてくれと大声で叫び、その主人に向かって「門を開けて宿を借して欲しい」と乞う。するとこの家の者が一人出て指頭人に向って返答する。それは滑稽な問答であるが、それが終ると箕を取り除けて中へ入れる。演者一行が門を入り新居の扉の前で歌ったり踊ったりして婚姻を祝福する。
春官が贋薬売りと婦女勾引に対する裁判を行うが、まず老官と老朷朷がやってきて、春官に状況を説明し、四人の耳支に子息の嫁が騙し連れ去られたと訴える。おもしろおかしい審理の後、春官は騙し連れ去られた女性を今晩の新郎にくれてやるとの判決を下して、最後には愚鈍な裁判官がいい加減な裁きをするという奇妙きてれつな結末の劇である。この審理から判決を下すに至る過程には、人間はいかに正直に世渡りをしていかねばならないか、いかにして真面目に人としての道を歩まねばならないか、その人生修養のことが説かれている。
この場面が終ると第二の次第への演技が進み、これこそが耳支歌の中心的な、また夜に最も盛り上がりを見せる場面である。その演技は指点人がお盆をさげ持って出、その中には種々の実物、道具が入れてある、主なものは豆腐、豆や米を盛った各々の碗、赤トウガラシ数包み、紅肉、クルミ数箇、それにダイコンを彫刻して作った羽毛が上方に向かって渦巻いている「観毛鶏」と呼ばれているメンドリ(女性生殖器のシンボル)、それに性行動作を示すのに用いられる諸道具である。演技は、主に指点人が盆の中の物を取り出して、一つずつ四人の耳支に言い当てさせるもので、他の者たちはふざけ合っている。この言い当て問答において双方は巧みにこれらの物の品名や言葉を、ペイ語の二通りの意味を持つ言葉や似た音を活用し、結婚、生殖、男女の交構など床入りに関係したものとして述べる。
例えば指点人が上方に羽を渦巻状にした鶏の作り物を取り出すと、耳支は、それは女性生殖器なりと答え、次に一本の骨を取り出すと今度は男性性器と答え、穴の開いた木板を取り出して、骨を木板の穴の中へ出し入れしてみせるとそれは男女の性交の態と答える。次にカボチャを取り出すと、ペイ語でカボチャと音が共通の「あやすように」を用いて、性交時に男性が強引に出るのを嫌い、「あやすようにして」というそれだと答える。さらに豆腐を取りだすと、豆腐と妊娠がペイ語においては音が共通していることから、それは性交後、妊娠し子供を出産することだと答える。米と豆を取り出すと、耳友一同声を揃えて「白い米、白い米、白一くで良い、生まれる

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION